子どもにとって本当に大切な学びとはなんでしょうか?テストの点数、通知表の評価、教科書に沿った勉強…。それも大切かもしれません。でも、もっと大切なことがあるかもしれません。そんな思いを形にしているのが、「自然スクールトエック」(TOEC)というユニークな学校です。
自然にふれながら、実際の体験を通じて学ぶ。机の前だけでなく、森や畑、仲間との関わりの中で育まれる「生きる力」。この記事では、自然スクールトエックとはどんな学校なのか、その特徴や教育内容についてご紹介していきます。
自然スクールトエックとは何か?
・「自然」と「学び」が融合した教育のかたち
自然スクールトエック(TOEC)は、徳島県阿南市にあるNPO法人が運営するオルタナティブな教育施設です。代表の伊勢氏により1990年に「TOEC幼児フリースクール(ようちえん)」、1985年に「TOEC自由な学校(小学校)」が設立されました。
「遊びが学び、学びが遊びになる」という理念のもと、子どもたちが自然と触れ合いながら主体的に学ぶ環境を提供しています。最大の特徴は、「自然の中で生きるように学ぶ」こと。子どもたちは田んぼ、畑といった自然の中を学びの場にしています。教科書中心の学習ではなく、自分の手で体験し、感じ、考えることで知識を深めていくのです。
・学校の理念と目的
トエックの理念は「子どもが子どもらしく、自分のままでいられる場所を」。それを支えるのが、自然とのつながりと、人との関係性。学力だけでは測れない、「生きる力」「感じる力」「共に生きる力」を育むことを大切にしています。毎日の暮らしや活動の中で、子どもたちは自分のペースで育っていきます。
・どんな子どもたちが通っているの?
都会から移住してきた家庭や、オルタナティブ教育に関心がある家庭の子どもたちが多く通っています。
どんな教育内容が行われているのか?
・自然体験を中心としたカリキュラム
トエックの毎日は、まさに「自然の中で暮らす」ことそのもの。春には田植え、夏には川遊び、秋には稲刈りや収穫、冬には雪遊び。子どもたちは四季の変化を全身で感じながら、自然のサイクルを学びます。これらの体験が、理科・社会・家庭科といった教科に自然とつながっていきます。
・机の前だけじゃない、学びのスタイル
「いい子でも悪い子でもない、自分になる安心」を育む場として設けられた無認可小学校です。日々の活動は「遊学タイム」と呼ばれる自由時間を中心に構成されます。
・体験から学ぶ「生きる力」
トエックの教育は、「生きる力」を育てることが目的です。たとえば、畑で野菜を育てて収穫し、みんなで料理して食べる。そんな日常の中で、「協力すること」「工夫すること」「感謝すること」など、人生にとって大切な学びが自然と身についていきます。教科書には載っていない、生きる知恵を学べるのがトエックの魅力です。
トエックと他の学校との違いは?
・評価よりもプロセスを重視
自然スクールトエックでは、テストの点数や順位で子どもを評価することはありません。その代わりに、子どもがどのように考え、どう行動したかという“プロセス”を大切にしています。失敗も学びの一部ととらえ、「どうすればもっと良くなるかな?」と一緒に考えることで、子どもは自信を持ち、主体的に学び始めます。
・子どもの個性を伸ばす教育法
一人ひとりの「やってみたい」を尊重するトエックの教育では、子どもが自分らしくいられることが第一です。全員が同じペースで、同じことをやる必要はありません。興味関心を起点に学びが展開されることで、子どもたちは自分の力で道を切り開いていくことを自然と学んでいきます。
卒業後の進路や活躍
- 学校教育への順応
トエックを卒業した子どもたちは、公立小学校や中学校に進学した後も、その子なりの形で順応しています。担任の先生からは「意欲的」「他人に対して寛容」「身体能力が高い」など、学力以外の面でも高い評価を受けることが多いようです。 - 専門職への進路
卒業生の中には、臨床心理士としてカウンセラーの道を歩む人もいます。例えば、Oさんという卒業生は、トエックで培った共感力や人間関係の経験を活かし、スクールカウンセラーとして活躍しています。 - 医師や環境活動家としての活躍
キャンプカウンセラーとして人気だったkさんは、医師となり、地域医療や環境保護活動にも積極的に参加しています。卒業後も自然保護運動や若者の政治参加を促すリーダー的存在として活動しており、トエックで培った価値観がその基盤になっています。 - 高校・大学での学びへの応用
トエックで学んだ「自分で考え行動する力」は、高校や大学での学びにも役立っています。自由な学び方に慣れていたため、新しい環境でも工夫しながら勉強を進めることができるといった声があります。また、「自然が好き」「人と違っていい」という価値観は、卒業生にとって大切な財産となっています。
卒業生の体験談
- 卒業生Nさんは、高校生になった後もトエックで得た「自分らしく生きる力」を活かし、自分の意見を言えるようになったり、クラスにも仲間と話し合い、協力する力を広めることができた経験が自信につながったと語っています。
- また、卒業生たちは自然体験やキャンプ活動で培ったコミュニケーションスキルや問題解決能力を日常生活や仕事に活かしていることが多いようです。
親から見た卒業後の変化
親たちは、「点数では測れない学び」を通じて子どもが社会性や自己肯定感を育んだことに満足しているという声があります。また、不登校だった子どもがトエックで笑顔を取り戻し、自分の得意なことを見つけて挑戦できるようになったという体験談もあります。
保護者Gさん
私の息子が自然スクールトエックに通い始めたのは、小学2年生のときでした。それまで普通の公立小学校に通っていたのですが、教室にじっと座っているのがつらく、毎朝学校に行くのを嫌がっていました。そんなときに出会ったのが、トエックです。
最初に見学に行った日、森の中を元気に走り回る子どもたちの姿を見て「ここなら息子も笑えるかもしれない」と感じました。実際に通い始めてからは、表情がどんどん明るくなり、家でも自然のことをたくさん話してくれるようになりました。
勉強は心配でしたが、田んぼでの米作りを通じて社会や理科に興味を持ち、自分から調べたり、作文に書いたりするようになりました。点数では測れない「学びの深さ」を感じられるようになったことは、親として何より嬉しい変化でした。
今では「自然の中で暮らすように学ぶ」というトエックの教育が、息子にとって本当に合っていたのだと実感しています。
保護者Cさん
私は県外に住んでいましたが、子どもの不登校をきっかけに「もっと合う学び方があるのでは」と探していたとき、自然スクールトエックを知りました。最初は引っ越しや環境の変化に不安もありましたが、実際に見学してみると、自然の中でリラックスして過ごす子どもたちの様子に心を打たれました。
通い始めた当初、うちの子は人と関わるのが苦手で、無理に会話をしようとすると固まってしまうような性格でした。でも、トエックでは「話すのが苦手なら、無理に話さなくていい」と言ってくれる先生や仲間がいて、少しずつ安心できるようになったようです。
木登りをしたり、土をさわったりして過ごすうちに、少しずつ笑顔が戻ってきました。今では「今日はこんな虫を見つけたよ」「火起こし名人になったよ」と話してくれるまでになりました。自分の得意なことを見つけ、失敗を恐れず挑戦できるようになった姿に、親として本当に嬉しく思っています。
自然の中で育つということは、心の根っこを育てることなんだなと、今はしみじみ感じています。
卒業生Nさん
私は自然スクールトエックで6年間を過ごしました。今は高校生になりましたが、トエックでの体験は今も自分の中にしっかりと生きています。
最初は、人と話すのが苦手で、自分に自信がありませんでした。でも、トエックでは「間違えてもいいよ」「そのままでいいんだよ」と言ってくれる先生や仲間に囲まれて、少しずつ自分の意見を言えるようになっていきました。
特に思い出に残っているのは、仲間と一緒に山に登って野外泊をしたこと。自分たちでテントを張って、ごはんを作って、寒い夜を乗り越える体験は、大人になった今でも「自分ならできる」と思える力になっています。
高校に入ってからは、トエックのように「自由に学ぶ環境」ではなくなりましたが、自分で考えて行動するクセがついていたおかげで、勉強のしかたにも工夫ができています。そして何より、「自然が好き」「人と違っていい」という気持ちを大切にできているのが、トエックで学んだ一番の宝物です。
トエックで学べて、本当に良かったと心から思っています。
映画「自由な学校」とは
映画「自由な学校」とはこの自然スクールTOECの卒業生である斎藤氏が大学の卒業制作で撮った映画です。卒業生だからこその距離感で本当の子供たちの姿をとらえ、「自由とは何か」を考える映画となっています。
斎藤さん自身が観客の反応を見て、その後の自由な意見を出し合う会にも参加されたいということで、映画のみの貸し出しはされていません。
映画のテーマと内容
『自由な学校』は、「自由とは何か」を問い続ける作品です。映画では、子どもたちが自分らしく成長する姿や、スタッフが子どもの自由を尊重しながら教育に取り組む様子が描かれています。特に印象的なのは、子どもたちが「ありのままを認められる」環境で過ごす姿や、スタッフが「子どもを思い通りにしようとしない」という教育方針を徹底している点です。
また、映画は「自由」とは単なる規則や制約のない状態ではなく、他者との調和や共感を通じて実現されるものだと示唆しています。例えば、卒業式のシーンでは、ある生徒が感極まって言葉に詰まる場面で、周囲の人々がその生徒を急かさず見守る温かい空気感が描かれています。このようなエピソードを通じて、「周囲の人々の自由を認めることで、自分自身の自由も育まれる」というメッセージが伝えられます。
映画の背景と制作意図
この映画は、「自然スクールTOEC」の日常に密着しています。
また、『自由な学校』では子どもだけでなく親への働きかけにも焦点を当てています。親向けの勉強会やフォローアップを通じて、「親自身も自由であること」が大切だと訴えています。
観客の感想
映画を観た観客からは、「心が温まる」「涙が止まらない」といった感想が寄せられています。また、「自由とは何か」を深く考えさせられるという声も多く、多くの人々にとって教育について再考するきっかけとなっています。
『自由な学校』は現在も全国各地で上映されており、多くの人々に教育現場における新しい可能性や「自由」の意味について考える機会を提供しています。
子供たちのその後が知れる「トエックらじお」
この映画を観ると、登場した子供たちの親戚のおばさんになったような気分になります。
登場した子供たちのその後を知れる「トエックらじお」もあり、自由に過ごした子供たちがどんな風に成長したのか知ることができます。期間限定でYouTubeで配信されていたこともあります。
そこで、小学校で全く勉強をしなかった男の子が公立の中学校に進み、ひらがなの表を渡され、「家で覚えてこい」と言われたエピソードがありました。しかし、その男の子は一学期が終わるまでには成績が最下位ではなくなっていたそうです。
まとめ
自然スクールトエックは、自然の中でのびのびと過ごしながら、子どもが本来持っている「生きる力」を育てるユニークな学校です。点数や競争にとらわれることなく、体験を通して学び、自分のペースで成長できる環境がここにはあります。
一見「特別な学校」に見えるかもしれませんが、「子どもが自分らしくいられる場所を」という願いは、多くの親の共通の思いではないでしょうか。自然スクールトエックは、そんな思いにそっと寄り添ってくれる、あたたかくて力強い学びの場です。
自然の中で学ぶことが、これからの時代にますます大切になる今。子どもの未来を考えるすべての家庭に、一度は知ってほしい学校です。
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